■ デンジャラスブロンディ CAT:08 猫寄せ草(ウィズアキャット)

 クスザワショウテンの付近には、公園が二つある。
 一つはダイイチ公園、もう一つはダイニ公園、とナユキやオトノハは呼んでいる。
 クスザワショウテンから距離が近いのはダイイチ公園だが、オトノハはいつも少し遠いダイニ公園に行く。コウミンカンに隣接したダイイチ公園はダイニ公園より広いが、オトノハより大きいニンゲンたちが、様々な大きさの球を転がしたり、放り投げたり、遠くにぶっ飛ばしたりしていて、好き放題に走り回るのは難しい。だからオトノハは足を伸ばして、スベリダイやらジャングルジムやらがいっぱいあって、自分と同じくらいの大きさのニンゲンたちが集まるダイニ公園までやってくる。
 ダイニ公園は、今日も騒がしかった。
 オトノハが周囲に負けじと奇声を張り上げ、走り回る。そんな光景をアタシは、年季の入ったベンチの上で、身体を丸めたまま眺めていた。
 なぜアタシがここにいるのか。アタシが自分の意志で見物にやってきた、といいたいところだが、そうじゃない。確かにアタシはこの公園にはよく散歩に来るし、オトノハが遊び回るのを観察するのだって一度や二度じゃない。
 だけど、オトノハが自分でアタシを抱えて、ここに連れてきたのは、今日が初めてだった。
 友だちと公園に遊びに行く、と言ったあいつが、何を思ったか、店先で眠っていたアタシを抱え上げて、歩き出した。
「ぐれこー。おさんぽしよっかー」
 しよっかー、じゃねえよ。連れ出す前に言え。そういうことは。
「あのねー。トキコちゃんがねー。ぐれこちゃんとあそびたいってー」
 嘘だろそれ。明らかに今考えただろお前。アイツだって家に帰りゃ遊べるんだよ。アタシの何倍もでかくて、ふてぶてしいヤツとな。
「ぐれこちゃんも、あそびたいよねー」
 うるせえ。ぐれ子って呼ぶな。
 引っ掻いて逃げ出してやろうかとも思ったが、まあ天気もいいし、公園で一眠りするのも悪くないかと考え直して、大人しく運ばれてやることにした。
 で、今に至るわけだが。
 丸まったアタシの隣には、アイツの友だちであるはずのところのトキコが、膝に手を置いて、座っている。肝心のアイツはといえば、他の小さいニンゲンどもと盛り上がって、アタシたちのことは完全に忘れているっぽい。どれだけ自分勝手なんだアイツは。
 たぶん大きくなったらアイツは、ニンゲンじゃなく猫になるんだろう。アタシはそう確信している。ガッコウでオトノハとトキコがどういう付き合い方をしているのかも、だいたいわかったような気がした。
 首を持ち上げて、トキコへ向ける。トキコはまっすぐ、駆け回るガキどもを見ている。何を考えているのか。その顔からは、見て取れない。
 オマエは混ざりに行かないのか、と一声鳴いてみせる。トキコはアタシに手を伸ばして、頭を撫でた。アタシたちを扱い慣れている触り方だった。
 落ち着いている、ように見える。ただ自然に、トキコはそこに座って、アタシを撫でている。それが自分の役割であるかのように。
 アタシはもう一鳴きする。なあ、あんた。アイツを恨まないでやってくれよな。たぶんアイツは、何も考えちゃいないんだ。目先に揺れるネコジャラシがあったら、そいつに飛びついていっちまうのさ。ただ、それだけなんだ。
 言葉が通じたわけはないだろうけど。わかっているよ、と言うように、トキコはアタシを撫でている。デブ猫とは相容れないが。このメスとは、はぐれ者同士仲良くできるかもしれない。
 視線を公園に戻す。ちょうどオトノハが、スベリダイとやらから降りてくるところだった。地面にたどり着くと、素早く立ち上がり、走り出す。その後を、続いて降りてきた見知らぬオスやメスが続いた。
 トキコを見る。白いふわふわの服を着た小さな身体から、細く白い手足が伸びている。こいつが、オトノハと同じように、飛んだり跳ねたり走ったり、できるだろうか。
 難しいだろうな。そう思った。普段は一緒にいたとしても。こういう遊び場に出てきてしまえば、オトノハには物足りない相手になる。
 アイツが、アタシを無理矢理連れてきた理由が、わかったような気がした。本人は、そこまで深く考えちゃいねえだろうけどな。
 とりあえず、帰ったら殴る。そう決めた。
 アタシはトキコに身体を寄せる。くっついても嫌がらず、今度は背を撫でる。心地よい撫で具合だった。
 騒がしい音が近寄ってくる。息を切らした汗だらけのオトノハが、ベンチまでやって来て、勢いよく腰を下ろす。トキコを見て、満面の笑みを浮かべる。トキコも、笑みを返す。
 アタシを抱き上げ、乱暴に撫でる。こいつはいつまでたっても、アタシの扱いが上手くならない。デブ猫さえいなければ、トキコ家の飼い猫になりたいところだ。
 オトノハは、逆側にアタシを降ろすと、立ち上がった。息はもう整っている。
「いこう」
 トキコの手を握って、立ち上がらせた。
 でもわたし、と言いかけるのを無視して、引っ張っていく。ふたりはベンチから離れ、騒いでいる小さいニンゲンたちの輪に溶け込んでいった。
 本当やりたい放題だな、うちのバカメス。
 けど、まあ。その強引さが役に立つことだって、たまにはあるだろうさ。楽しんできな、フレンド。
 身体を起こし、ベンチから飛び降りる。確かこの公園の裏側に、野良猫たちの溜まり場があったはずだ。アタシには手を引いてくれるヤツはいないけど。後ろから見てくれているヤツ。帰ったら抱き上げてくれるヤツはいる。
 さて、ちょっくら挨拶してくるか。
 四肢に力を漲らせて。アタシは歩き出した。

(続く)

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