「おいし〜い!」
隣の部屋から、彼女の喜ぶ声が聞こえる。
何にも変えがたい、暖かい感覚が僕を包み込む。
………
今日は雪だ。
6畳の部屋は、暖房をつければすぐに暖かくなる。
狭い部屋も、こういう時はありがたい。
しかし、一つ仕切られた台所となると話は別だ。
横にある玄関の鉄の扉からは、冷気が伝わってくる。
建てつけが悪いのかもしれない。
そのせいか、時間がかかったが…沸騰した。
直径260mm×高さ400mmの業務用パスタパン。
このくらいでなければ十分な湯は沸かせない。
ガヴェラ社のスパゲティーニは1.6mm、
当然デュラムセモリナ100%だ。これを300グラム使う。
フライパンにオリーブ油、ニンニクを入れて強火で熱し、
香りが立ってきたら玉ネギを加え、しんなりするまで炒める。
「コレいいか?」
友人の声。
しかし、ここからは時間との戦いだ。手を止めるわけにはいかない。
下茹でしたほうれん草を加えて、サッと炒め合わせる。
「おい」
声を出すと、集中が切れてしまう。
白ワインを加えたら、強火にしてアルコール分を飛ばし…
「食うぞ?」
ああ、なんでも食ってくれ!僕は忙しいんだ。
「おーい!食うぞー?」
その瞬間、
「あっ!」
手からワインがすり落ち、床に拡がる。
「あーあ、大丈夫かよ」
「…」
塩、コショウで味を整える。
後は、茹であがったパスタを手早く全体に混ぜ合わせるだけだ。
とりあえず、これで一息いれられる。
「あれ?砂糖入れた?」
…耳を疑った。
「入れろよ」
無視して、パスタを盛り付ける。
「絶対入れた方がいいって」
ドサっと音がして、目の前が真っ白になった。
砂糖1kgと書かれた透明な袋の向こうに、友人の顔が見える。
「おっ、お前…!」
「シーッ!大声出すなよ。嫌われちゃうぜ?」
「…」
「安心しな。アイツのことは、俺の方が詳しいんだから…」
………
「おいし〜い!」
隣の部屋から、彼女の喜ぶ声が聞こえる。
何にも変えがたい、暖かい感覚が僕を包み込む。
「料理上手だろ?」
友人の声だ。
「私が甘いの好きだって知ってたんだね」
甘いパスタが好きなんて、少し抜けてるのかもしれない。
でも、僕はそんなところが…
「まぁカレシとしては、お前の好みくらい知ってなきゃな」
…好きなんだ。