潔は広くなってしまった我が家に淋しさを感じていた。
妻を4年前に見取り、そして3人の子供達ももう心配する事なく、それぞれが自立し安定した家庭を築いていた。
しかし遠方にいる為、ほとんど顔を合わせる事もなくなってしまっていた。
そんなある日、新聞の片隅に「故人の意思を尊重した葬儀を行ないます。」と書かれた広告を見つけた。
潔はどうせ自分の葬儀は自分で見ることが出来ないのだから、馬鹿げた話しだが生前葬をやってみようかと思っていた。
「これも故人となる人間の意思の尊重かもしれないからな。」と。
早速、そこの会社から担当者がやってきた。
葬儀屋らしく、紺色の上下のスーツを着込んだ中年太りの五島と言う男だった。
潔は五島に自分の生前葬のプランを伝えた。
始め五島は驚き、その仕事を断わった。
生前葬など、話では聞いたことはあったが、実際に自分の会社では受けた事がなかった。
「故人の意思を尊重した葬儀」を掲げているからには断わりきれずに、潔の強い要望で渋々受けることになった。
葬儀は潔の強い希望で、生前葬ではあるが誰一人にも生前葬であることを知らせず、普通の葬儀として執り行うことになった。
潔はその葬儀の様子を、会場の別の場所からそっと覗いていた。
突然の悲報を受けて、慌てて会場に次々と人が現われた。
しかし不思議なことに、遺体が納められているはずの棺には潔の姿はない。
3人の子供達が次々に自分の家族を引き連れて、会場に姿を表した。
五島の「変死と言うことなので、解剖に回されております。ご遺体がお戻り次第、すぐに葬儀を執り行います。」という苦しいいい訳を神妙な面持ちで聞き終わると、子供達が何やら相談をし始めている。
父親の死について悲しむのかと思いきや、誰も住まなくなった家の処分についてだった。
年頃の子供を抱えるそれぞれの家族は、不況の煽りか厳しい経済状況に置かれているようだった。自分が育った家とは言え、今では大事に住もうと言うよりも、早く現金化をしてサッパリと財産分けをしたいと言うのがそれぞれの思いのようだった。
潔は遠くで生活をしている子供達が、自分の残した家に帰って来るはずがないとわっていたこととは言え、事務的に進むその話をたまらない思いで聞いていた。
五島の携帯が鳴った。
潔は書いたばかりの遺書を手に、近くの雑木林に向かって歩いていた。
「あと1時間で逝きますので、その時間になったら引き取りにきてください。」