「最近うまくいってなくてさ。」
卒業を間近に控えたある日、とある喫茶店で俺の目の前の席に座った親友はそう言った。
またか、と心の中で呟く。
こいつがこのお決まりの台詞で話をする時は、彼女とケンカした時だ。
そしてこれから俺に愚痴を言い始める。
「何ていうか、縁が無いって言うの?」
お前らめちゃくちゃ腐れ縁だろ?と心の中でとりあえず突っ込んでおく。
俺はこいつの話は最後まで聞いてから何か言う事にしている。
彼女とはケンカは絶えないが仲はいい。小学生の頃からの幼馴染だそうだ。
「はぁ。」
と、親友が溜息を漏らす。だが不思議と陰鬱さを感じない。
「今のをやめて、何か新しいのを探そうかなぁ。」
今の彼女と別れて、新しい出会いでも探そうってのか?一体こいつは何を考えているのか、全く分からない。
「でもさぁ。」と親友は真剣な顔で話し始めた。
「福沢さんは高嶺の花だろ?」
福沢さん?そんなコ居たかなぁ?
美人で性格もいい彼女を差し置いて高嶺の花とは一体誰だ?親友はさらに続ける。
「それに稲造さんにはなかなかお目にかかれないし。」
い、稲造ぅ〜!?俺は稲造という名の女の子を連想する事を必死に試みた。
無理だ絶対に無理だ。どう考えても男だよな?おいおい、こいつそんな趣味あったのか。
こいつとの友人関係を見直さなきゃダメかもな、と思考を廻らせている俺に構わず友人は続けた。
「んでもって夏目さんはすぐ居なくなるだろ?あぁ〜やってらんないよ。ほんと。」
そう言って友人はカップに半分ほど残っていたコーヒーを一気に飲み干した。
<すぐに居なくなる>この表現で俺はある事に気付いた。すぐさま親友に問う。
「・・・なぁ、お前一体何の話してるんだ?」
空っぽになったコーヒーカップを置きながら、親友はこう言った。
「金の話だよ。金。一万円札の福沢諭吉は高嶺の花。五千円札の新渡戸稲造はあんまり見ないし、千円札の夏目漱石はすごい勢いで居なく なるし。小銭なんてどこで使ったか覚えてもないし。あぁ〜、困ったよ。ほんと。実は卒業したらアイツと結婚しようと思ってさ。いろいろ金がいるだろ?だからアイツに金遣いが荒いって怒られたんだよ。ってどうした?おい?」
下を向いてプルプル震えてる俺に親友は気付いたようだ。
とりあえず、心の底から「おめでとう」を言った後に、
「紛らわしい言い方してるんじゃねぇッ!!」
という突っ込みと怒りのモンゴリアンチョップが炸裂した事はここだけの秘密だ。