本来、付き従うだけの存在である僕が、今こうして彼女を慰めているのは、それが必要なことだからだ。
「恐いの。いやな夢ばかり見るの」
 彼女は泣きながら訴える。小さな身体をさらに縮めて、膝を抱いて震えている。そんな彼女を僕は抱きかかえ、背中を撫でてやるのだ。
「嫌な夢は、夢でしかない。本当のことじゃないんだ。だから、恐がらなくてもいいんだよ」
 彼女は本当に小さい。まだ子供だから。いろんなことが判らなくて、いつも怯えている子供の彼女を、僕は支えてやらなくてはいけない。彼女がそれを望んでいるからこそ、僕はここに存在しているのだ。
 彼女が望むのならば、僕はこれからも寄る辺なき彼女の心を癒す存在でありたいと思う。望む言葉を掛け続ける存在でありたいと思う。だけど近頃、どんなに言葉を尽くして慰めても、僕には彼女の涙を止めることが出来なくなっていた。何かが変わろうとしている。僕も彼女も、その変化に気付き始めていた。
「でも……! ほんとうになるかも知れないでしょ。ほんとうに、いやなことが起こるかもしれないじゃない。やっぱり恐い。わたし、どこにも行きたくない。ずっと、ここにいる」
 漆黒の闇の中、溶け込んで見えない僕に、彼女はしがみついて訴える。
「本当に……? 本当に、ずっとこうしていていいの? それで君は、幸せになれる?」
「……ええ。だってあなたは、決してわたしをうらぎらないもの」
「そうだね。僕はいつだって、君の味方だ。何があっても」
 そう。僕はどんな時も彼女の味方だ。そして彼女の心を映す鏡。今までも、これからも。
「だから判る。君は、本当は、ここから抜け出したい。だけど勇気が持てない。……違うかい?」
「わたしは――」
 彼女は言葉を詰まらせる。僕は彼女の両肩に手を添え、身を起こしてやると、不安に揺れるその瞳を、深く見つめた。

「求めるものは、与えなければ手に入らないんだよ」

 濡れた瞳が一瞬、見開かれた。まっすぐな彼女の視線は、とても綺麗だった。
「欲しいものは、言葉にして伝えなきゃ、気付いてもらえない。……なにも言わなくても君の願いが判るのは、僕ぐらいのものなんだからさ」
 軽く笑いながら、僕は彼女の髪を優しく撫でる。そして今までと同じように、彼女が望む、一番の言葉を口にした。
「大丈夫。君ならできる」

 大人になった彼女が歩いてゆく。求める者のために。
 その歩みに重なる僕は、いつまでも変わることなく寄り添い続ける、彼女の影法師。

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