繁華街を抜けた所にある小さな事務局。

知った顔に声をかける。
「あら、お久しぶりですね」
「ちょっとばかり頼まれてくれ」
数十枚の紙切れを彼女の前に置く。
「また書類の整理ですか?」
彼女が顔をしかめる。
「ああ、頼む」
「雑用も良い所ですね」
「うちにはインクの臭いが少なすぎる。
 可愛くないこいつを可愛がれるのは君ぐらいだろう」
「ご冗談。
 紙切れに愛着なんて沸きませんよ。
 沸くとしたら、これ全部燃やしてやりたいと思ってる自分に……ですかね」
冗談を言う彼女もどこか冷淡だ。
「解りました。承ります」

「……おい。あの男と知り合いか?」
彼を見送った上司が呟く。
「さあ?」
「お前……あの男の事を知らないのか?」
「ええ。娼婦を操る貴族って事ぐらいしか」
上司が肩を落とす。
「……とにかくだ。
 失礼の無いように取り入れ」
「取り入……わかりました」
この紙くず置き場も経営難か……。
彼女が溜息をつく。

夜の公園。
昼にはない、ある意味での賑わいを見せる。
公園のベンチに違和感を見つける。
「あら、白馬の王子様?」
「…酔ってるのか?」
呑める女ではないことを彼は知っている。
「ええ、これで温かさがあれば申し分なし」
彼が彼女の隣に座る。
「では、くれてやる」
「んっ……」

長い沈黙。

唇を離す。
ようやく時計が動き出した。

彼が静かに腰を上げる。
「それだけ……ですか?」
彼女の顔に不満な表情はない。
むしろ、この時を楽しんでいるようだ。
笑みを生んだ彼の顔は闇に消えた。

数日後、街に煙が上がった。
彼が書類を取りに挙がった日なのだから皮肉なものだ。
人集りの中、彼女を見つける。
「まさか本当に燃やすとはな」
「美景でしょう?」
彼女は酔いしれたように炎に向く。
確かに火の粉が揚がるその光景は例えのない美しさだった。

数日後、彼女は彼を訪ねた。
猫にとって重要なのは温かさらしい。

「ここがどういう所か解っているのか?」
「雨風しのげて温もりのある魔法使いの家」
「再就職も人脈頼りか……」
「その方が効率がよろしいんです」

「ついてこい」

固い床を降り、固い扉を開ける。
女を貶める道具が散らばる闇の空間。
「良い趣味ですね」
「味見だけなら事足りる」
彼女は覚悟を決めたように上着を脱ぎ始めた。
彼女の色が白から黒に染まる。


「そういえば放火魔が捕まったようだな」
「……私からすればその人は幸運の死神ですわ……」
彼女にとっての生命線は数本切れた。
新たな生命線を増やすには時間がかかりそうだ。

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