細切れのラブストーリー


 ばあちゃんはつぶれて鳴らない鈴をずっと大事に持っていた。
「ばあちゃんあんねー、今度担任になった先生なんやけどね。すっごくカッコよかったんよ!」
 はしゃぐ私をばあちゃんは目を細めて昔を懐かしむような顔をして見つめる。
「へえ、担任の先生が。……梨香子はじいちゃんが先生だって知っとったかいね」
 ばあちゃんが同居するまでじいちゃんは戦争中にトッコウタイに行って死んだとか、私はそれぐらいしか知らなかった。
「少し前に聞いたよ。」
 今では私はじいちゃん博士だ。知らないのはじいちゃんの顔だけかもしれない。
「梨香子が小さいころから気にしとう鈴な、あれはじいちゃんがくれたんよ。よーし、今日はこの鈴を貰った時の話したろ。」
 ばあちゃんはくすくすと笑った。私はふとした時に語られるばあちゃんの細切れのラブストーリーが好きだった。
「じいちゃん……このときはまだ先生やね。先生がポケットを探ると澄んだ音が、そうしゃらしゃらって音がしたの。ばあちゃんは差し出されたその銀色の珠がどんな宝石よりも素敵なものに見えたんよ。それがこの鈴。
『君と同じ名前だから。君に似合うと思ったんだよ。』そう言って先生はばあちゃんの手に鈴を握らせてね。
『俺は教師だからさ、授業中はすずの方ばかり見てやれない。……でも鈴の音が鳴ればおまえがそこにいるのがわかるだろう?』って。それからどんなときもこのすずは体から離した事ないんや」
 私は黒板に向かいながら鈴の音を聞くたびにドキドキしている担任の教師を想像して一人で真っ赤になった。
「マンガみたい! ばあちゃんええなぁ。」
 女学校時代のばあちゃんと私の歳はそう変わらなかった。ばあちゃんにはこんな素敵な恋話があるのに、私には欠片もないなんてなんだかとても悔しい。
「ばあちゃん、待っててな。今にばあちゃんがうらやましがるような恋愛してみせるんやから」
 そうして私は密かに体の陰で決意を込めてガッツポーズを作る。

 私がばあちゃんもうらやましがるような恋愛をしたのはそれから10年も後のこと。
 ばあちゃんはそんなにも待っていられなかった。私は命日のたびにその相手とお墓参りに行ってのろけてくる。さわやかな風に乗ってばあちゃんのくすくす笑いが聞こえるような気がした。

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