『ねえアヤ、パンの耳って食べる?』
『パンの耳?』
ある日の昼休み。中庭の芝生の上でサンドイッチを食べながらサツキは言った。
横で一緒に弁当を食べていた少女が首を傾げる。サツキは食べ残したパンの耳をつまんで、『パンの耳ってさ昔から何となく食べなかったんだけど、フツーに食べられるものなんだよねぇ』
そんな間抜けとも言える疑問に綾は、
『当た前じゃん、パンの耳ってのはパン生地焼く時に直接熱を受けて焦げたっつーかよく焼けた部分ってだけで、別に違うものつけてる訳じゃないんだから。サツキはカステラの黒いとこ残す人?』
『ううん、食べるよ。紙についたやつまできれいに』
『そうそう!あの焦げたとこ美味しいんだよねー。ってか、それと一緒だよ』
とあっさり言った。
『そっか、そうだよね。じゃあ今度食べてみよっと』
『それ食べれば?手に持ってるやつ』
綾はサツキの手にあるパンの耳を指して言う。彼女はつまんだ耳を眺めながら、
『うーん、苦そうだから止めとく』
『苦くないってばさー!ほら』
パンの耳を奪い取りサツキの口元に持っていく綾。逃げようと僅かに身を捩った時、陽射しの方から可愛らしい声が降ってきた。
『アヤちゃんサッちゃーん、次の理科外だって。50分に裏山に集合ー』
助かったとばかりに立ち上がるサツキ。初体験させるチャンスを逃した綾は『もぅ…』と呟きながらそのままそれを自分の口に放り込んだ。脚についた芝を慌しく払い落とし走り出す。なにやら不服そうな顔をしていた綾だが、
『じゃあ今度耳でお菓子作って来たげるよー』
と言った。それを聞いた途端サツキは振り返り、満面の笑みで、
『ホント?やったぁ、じゃ早く作って来てね、待ってるから』
綾はやれやれという表情でサツキの後に続いた。
その後綾が作ってきたのは、パンの耳を中までカリッと揚げて粉砂糖をふっただけの素朴なお菓子だった。
それから10年の歳月が経ったある日、綾が自分にパンの耳を食べさせる為に持ってきたそのお菓子を作っていた。
花柄のペーパーに包んで口をリボンで結ぶ。それをカバンに入れたときチャイムが鳴った。
玄関のドアを開けるとそこには中学時代の友人が立っていた。
『準備できた?』
『うん』
『じゃあ行こっか、綾の墓参り』
『うん』
中学卒業してすぐ綾は病気で逝ってしまった。だから命日には毎年欠かさず作って持っていく。
パンの耳、それは綾がくれた大切な最後の思い出だったから…。