■物語・構成
戦場とそれを体験し、地に伏す一兵士の回想を描いた作品。泣かせものとしてみた場合にこの舞台設定は「ずるい」と言われかねないものですが、それを丁寧に、読者に読ませるように書いている点は、伝えるという観点からも素直に評価したいと思います。
終幕の状況から回想、そして終幕へと一回転する構成。この構成法では頭と終わりの繋げ方、そして現状と回想シーンの繋げ方をどうするかが腕の見せ所でありますが、本作においてはその接続がスムーズで、作品世界への没入を容易にしていると感じます。
■文体・文法
文体だけを採り上げるなら硬質で取っつきにくい文体です。が、それを構成や描写面で補って上手く活かしているという印象です。読み進むうちに描写は多いのに無駄は少ないと感じさせます。
全体としての情報量は少ないのですが、それを膨らませて、読者にイメージさせたり作品世界に引き込むことを意図的に行っています。本作においては成功している文体・文法であると思われます。
■描写・演出
一つ一つの描写が秀逸。「泣きすがる母と、黙って手を振る父」「その見開いた目から、敵意は急速に失せていった」など心に訴えてくる描写が多数見受けられます。これらの描写一つ一つを追っていくのが楽しい。
これらは主にセンスや作家性に付随する部分なのでどこがどうと詳しく分析できないのが残念ですが、ともかく私はこれらの描写が大好きなのです。
■総評
全体としての完成度が高い作品です。構成と文体、一つ一つの描写が見事に組み合わさっており、イメージ喚起力が高い。また全体を通してその後ろに作家の提示するテーマがほの見えているのもいいと思います。
ワンシーン切り取り型の掌編で、そのワンシーンを深く掘り下げていくことでストーリー性を出しているのですが、シーンの選び方や描写と相まって作品内に引き込まれる作品に仕上がっています。
とりあえず私からこの作品に対して言えることは、ありません。