茶林感想 『思い出の耳』


■物語・構成
 爽やかな青春小説といった趣の作品。学生時代を切り取ったシーンと10年後の一コマという構成になっていますが、それぞれのシーンの繋ぎ方が効果的なものとはなっていない気がします。
 内容的には衝撃の大きい物語転換になっていますが、シーンが切り替わったあとの切り出しが単調に感じられて、爆発力が削がれているという印象を受けました。

■文体・文法
 あまり小説的な文章に慣れていないというイメージを受ける文体です。飾り気がなくシンプルで読みやすくはあるのですが、ここぞというときの盛り上げに欠ける、単調で物語を綴るのに精一杯という印象です。
 一点、綾が会話の中では「アヤ」、地の文では「綾」なのにたいして、サツキは地の文でも会話文でも「サツキ」になっている。これはこれできちんと統一されているのですが、地の文の綾だけが浮いた感じになっているのは否めません。文字数制限のための処置?

■描写・演出
 会話文での描写や書き出しは面白く、物語に読者を惹きつける効果を上げていると思います。ですが”ある日の昼休み。中庭の芝生の上でサンドイッチを食べながらサツキは言った。”のようにひとつひとつの描写というよりは記述に近い地の文が多く、上でも書いたように全体として単調な印象を与えていると思います。やはり情報を出すのにいっぱいいっぱい、という印象を受けます。
 タイトルの付け方はとてもいいと思います。

■総評
 題材と話運びは悪くありませんが、味付けがちょっぴり薄味だったかな、という感想です。練り込めば、こう書くと何ですが、読者がほろりと涙してしまうような絶妙の短編にも仕上げられる一編ではなかったか、という気がします。正直1000字ではちょっと厳しい題材であったと作者様も思っていらっしゃるのではないでしょうか。もしも自サイトなどで発表される場合には、ぜひとも存分に書き込んで一編の短編または長編作品としていただきたいと思います。

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