■物語・構成
ミステリ・サスペンス調の一編。長編小説でいうなら、ちょうどクライマックスの部分からはじまる、といった感じでしょうか。最初から最後まですこしずつすこしずつじわじわ盛り上げていくという構成に仕上げています。
正直に申し上げますと、最後まで読んだあとでもどれがどう繋がっているのかがわからない。テレビの向こうで起こっている事件を含めると8人になるわけですけれども、テレビのこちらの彼が模倣犯で、向こう側で起こっている7人目の死者が真犯人、という解釈でよかったのでしょうか。
上記の通りであるとすればかなり難解なプロット立てということになります。このプロットをどう見せていくかというのが肝要なところですが、難解なプロットをわかりやすく見せる、という点に関してはあまり成功しているとは言い難いかなあ、と思います。
■文体・文法
硬質で内容に沿った雰囲気ある文体です。長文が多いのですが、的確な情報を飲み込みやすい順に提示されているので、読みやすかったです。このプロットや内容を考えると、文体の部分でできる限り気を配って読みやすくするのは大切なことだと思います。好感を持ちました。
■描写・演出
記述のところどころに”殺人事件について報道、とはいいがたい野次馬趣味な狂態”など皮肉的な文章を混ぜることで、硬い文章を読み進めさせることへの牽引力を保持しています。
一つ気になったのがナイフの描写で、”折り畳み式のナイフを、パチン、パクン、パチン、パクンと”のところですが、折り畳みナイフという情報を提示したあとでこれだけ文字数を費やして擬音を続けるのは、1000字という長さではもったいなかったのでは、と思います。この部分を削って必要なところの情報提示に用いられたなら、と思えてなりません。またこれがなければあとの「パチン」がより効果的になったのでは、と考えられます。
■総評
今回の投稿作品の中で最も難解なプロットをもつ(と私は思う)作品でした。私の理解が正しいものであったならば、かなり練り込まれた構成を1000字という長さで成し遂げられたロジック精度の高い作品ですが、説明、種明かしという部分においては不充分という印象を受けました。ただ作者様としてはこれ以上は説明をしたくない、といったような感触も受けたので、どちらがよいとは一概には言えないところもあると思います。ミステリ好きの方だとこれくらいの種明かしの方がいいのかしら。