ホウドウパニック


 その報告が届いたとき、スタジオ内は騒然となった。
「ディレクター! 今、例の女の子が『テレビドラマを観てこの犯行を考えついた』と証言したという情報が入りました!」
「な、何だって!」
 機材のチェックをしていた者。段取りの最終確認をしていた者。すべてのスタッフが入り口で荒い息を吐いているADの方へ振り向いた。そして彼の放った言葉の重要性を認識した一秒後、パニックがはじまった。
「おい! どういうことだよ!」
「どういうことって……今回の事件の原因はテレビでした、ってことだろ?」
「マジかよー! 聞いてねーよー!」
 ADがもたらした情報。それは彼らテレビ業界人がもっとも耳に入れたくない情報だった。
 現代社会ではテレビというこの大メディアに関わる者こそが絶対の強者である。彼らは皆そう思っていた。報道としての新聞メディアが失墜し、ラジオも受信率が年々下降している現在、ある一面において彼らは確かに強者だった。多くの視聴者を獲得し、報道と通信の役割を一手に引き受ける。彼らにとって敵となり得るのは同業者だけだった。
 その権力を振りかざして、彼らは今までに他の様々なメディアを攻撃し続けてきた。特に新進の報道通信メディアとして台頭してきたインターネットは彼らにとっても驚異であり、彼らが手にしている美味なる果実を奪われないためにも、力を削いでおく必要があった。
 今回の事件は、その新興メディアを叩き潰す絶好の機会。そのはずだった。
 まさか投げつけた矛がブーメランのように自分たちのところに帰ってくるとは。彼らのうちの誰一人として、そんな事態は予想していなかった。そもそもそれだけの想像力もモラルも持ち合わせていなかった。
「ど、どうします? ディレクター!」
「決まってるだろ! 無視だ、無視! そんな情報なかったことにして番組つくるぞ!」
「でも俺たち、さっきまでさんざんインターネットを叩いてたんですよ? この情報が他のメディアに漏れたら……」
「だからって、こっちから流したらヤツらの思うツボだろうが! テレビこそが最も世論を反映している。そう思わせるんだ! なぁに、いつも通りやればいいだけだ。簡単なことだろ?」
 スタッフたちは顔を見合わせた。そうだ。いつも通りやればいいだけじゃないか。今までだってそうやってテレビメディアは生き残り、大きくなってきたのだ。何も難しいことはない。
 スタジオ内に平穏が戻りつつあったそのとき。別のADが息を切らして駆け込んできた。
「大変です! 二〇年警察が追い続けていた大物詐欺師が先ほど逮捕されました! で、その詐欺師の証言なんですが、『犯行はすべてテレビを参考にした。特にニュース番組の世論操作や恣意的報道のテクニックには学ぶことが多く……

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