
月刊「かんご」6月号
奇跡の病室
むかひらすすむ、関 丕 編著
石川県金沢市で50人を越える若い女性達が、脳血栓で全身マヒとなった1人のおばあちゃんの介護に当たった実話の世界は、これまでにもアニメーション映画「パッチンして!おばあちゃん」(朝日新聞社制作)やそのたった1人の娘である関丕(せきひろ)さんの著書『光のなかの生と死』(朝日新聞社)で紹介されてきた。
その同じテーマであるが、おばあちゃんの死から10年余りを経て、現代の介護をめぐる課題を考える上で再検証を試みたのが『奇跡の病室』である。新聞記者出身の編著者むかひら氏が、ジャーナリストらしい冷静な目で病室に描かれたさまざまな出来事を丹念に拾い上げてよく記録し、さらにリアリテイのある病室を復元したことが感動を呼ぶ力となっている。
この本の元になった世界は、確かに「奇跡」という名に値するものであると思う。誰かが企てて、マニュアルを書いて実現できるものでは決してないからだ。しかし「奇跡」という程に人離れした業かというと、そうではない。ちょっと真似のできない、しかし確かにそこにあった世界、という訳である。かって『光のなかの生と死』を読んだ時、私にはちょっと眩しい、到底できそうにない世界、との思いを抱いた覚えがある。しかし、それは、関丕さんが指揮棒を振るってなさったことではなく、むしろ、誰をも限りなく信頼され、自分自身を完全に信頼されて、ロングランに続けられた「エンカウンター・グループ」の結晶であったことに本書を読んで気づいたのである。構成とか、作り物といったものが何一つない。一人ひとりがもつ力を織りなす場所、そこがこの病室であったということだと思う。もはや再現、反復はできないけれども、人間にある可能性を再び眼にした気持ちで私は感動している。看護婦・士の皆さんに勧めたい。今の自己を決して否定しなくてもいい。そのままそっと側にいる人に眼をやり、自分にできることを、自分にできるだけすればいいのですよ、という暗黙のメッセージが本書に込められている。
鈴木正子(すずき まさこ)
広島大学医学部保健学科臨床看護学