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人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約(人身売買禁止条約)


決議 1949年(昭和24)12月2日 署名開放1950年(昭和25)3月21日国連第4総会
効力発生 1951年(昭和26)7月25日
日本国 1958年(昭和33)4月11日国会承認5月1日加入書寄託、7月30日公布(条約9号)、同日効力発生

 売春及びこれに伴う悪弊である売春を目的とする人身売買は、人としての尊厳及び価値に反するものであり、かつ、個人、家族及び社会の福祉をそこなうので、婦人及び児童の売買の禁止に関し、次の国際文書、すなわち、
1 1948年12月3日に国際連合総会で承認された議定書により改正された1904年5月18日の「醜業ヲ行ハシムル爲ノ婦女賣買取締二關スル國際協定」
2 前記の議定書により改正された1910年5月4日の「醜業ヲ行ハシムル爲ノ婦女賣買禁止二關スル國際條約」
3 1947年10月20日に国際連合総会で承認された議定書により改正された1921年9月30日の「婦人及児童ノ賣買禁止二關スル國際條約」
4 3に掲げる議定書により改正された1933年10月11日の成年婦女子の売買の禁止に関する国際条約が有効であるので、1937年に、国際連盟は、前記の文書の適用範囲を拡大する条約案を作成したので、また、前記の文章を統一し、かつ、1937年の条約案の内容に望ましい変更を加えたものを具体化する条約を締結することが、1937年以来の諸事情によって可能となっているので、よって、締約国は、ここに、次のとおり協定する。

(売春の勧誘、誘引及び拐去)
第1条 この条約の締約国は、他人の情欲を満足させるために次のことを行ういかなる者をも処罰することに同意する。
 1 売春を目的として他の者を、その者の同意があった場合においても、勧誘し、誘引し、又は拐去すること。
 2 本人の同意があった場合においても、その者の売春から搾取すること。

(売春宿の経営など)
第2条 この条約の締約国は、さらに、次のことを行ういかなる者をも処罰することに同意する。
 1 売春宿を経営し、若しくは管理し、又は情を知って、これに融資し、若しくはその融資に関与すること。
 2 他の者の売春のために、情を知って、建物その他の場所又はその一部を貸与し、又は賃貸すること。

(未遂及ぴ予備)
第3条 第1条及び第2条に掲げるいずれかの違反行為の未遂及び予備も、また、国内法が認める範囲内で処罰されるものとする。

(加担行為)
第4条 第1条及び第2条に掲げる行為に対する加担行為も、また、国内法が認める範囲内で処罰されるものとする。加担行為は、処罰を免かれることを防止するために必要であるときはいつでも、国内法が認める範囲内で、独立の違反行為として取り扱われるものとする。

(被害者たる外国人)
第5条 被害者が、国内法に基きこの条約に掲げるいずれかの違反行為に関する訴訟の当事者となる権利を有する場合には、外国人は、内国人と同一の条件でその権利を有するものとする。

(条約違反の国内法令などの廃止)
第6条 この条約の各締約国は、売春を行う者又は売春を行う疑のある者が特別の登録を行い、特別の書類を所持し、又は取締若しくは通告に関する特別の要件に服する旨を規定しているいかなる現行の法令又は行政規定をも無効にし、又は廃止するため必要なすべての措置を執ることに同意する。

(外国の有罪判決の考慮)
第7条 この条約に掲げる違反行為のために外国で受けた過去の有罪判決は、国内法が認める範囲内で、次の目的のために考慮に入れられるものとする。
 1 常習性を証明するため。
 2 犯罪者の公権を行使する資格を喪失させるため。

(犯罪人引渡)
第8条 第1条及び第2条に掲げる違反行為は、この条約のいずれかの締約国の間で締結されているか、又は将来締結される犯罪人引渡条約における引渡犯罪とみなされるものとする。この条約の締約国で、犯罪引渡について条約の存在を条件としないものは、今後、第1条及び第2条に掲げる違反行為を、これらの国の間において、引渡に係る事件と認めるものとする。犯罪人引渡は、その請求を受けた国の法令に従って行われるものとする。

(訴追)
第9条 自国民の犯罪人引渡が法令で認められていない国においては、その国の国民で第1条及び第2条に掲げる違反行為のいずれかを国外で犯した後に自国に帰国したものは、自国の裁判所で訴追され、かづ、処罰されるものとする。前項の規定は、この条約の締約国間における外国人に係る同様の場合について、外国人の犯罪人引渡を認めることができないときは、適用がないものとする。

(外国で裁判を受けたものの訴追)
第10条 前条の規定は、犯罪により訴追を受けた者ですでに外国で裁判を受けたものには、適用しないものとする。ただし、有罪の場合には、服役を完了し、又は当該外国の法令に従って刑を免除され、若しくは減刑されたものに限る。

(国際法上の刑事裁判管轄権)
第11条 この条約のいかなる規定も、刑事裁判管轄権の範囲に関する国際法上の一般的問題に対する締約国の態度を決定するものと解してはならない。

(国内法による定義、訴追及ぴ処罰)
第12条 この条約は、この条約に掲げる違反行為が各国においてその国内法に従って定義され、訴追され、及び処罰されるべきであるという原則に影響を与えるものではない。

(司法共助)
第13条 この条約の締約国は、自国の国内法及び慣行に従って、この条約に掲げる違反行為に関する司法共助の嘱託書を実施する義務を負うものとする。司法共助の嘱託書の送付は、次の方法のいずれかにより行う。
 1 司法当局間の直接の通信
 2 両国の法務大臣の間の直接の通信又は嘱託国の権限のある他の当局から受託国の法務大臣への直接の通信
 3 受託国に駐在する嘱託国の外交使節又は領事官経由。その外交使節又は領事官は、司法共助の嘱託書を直接に受託国の権限のある司法当局又は同国政府の指定する当局に送付するものとし、かつ、司法共助の嘱託書の実施に関する書類は、前記の送付先当局から直接に受領するものとする。1及び3の場合においては、司法共助の嘱託書の写1通を受託国の上級当局に必ず送付するものとする。別段の合意がない限り、司法共助の嘱託書は、嘱託当局の国語で作成しなければならない。ただし、受託国は、嘱託当局が正確であることを証明した受託国の国語による翻訳文を要求することができる。この条約の各締約国は、他の各締約国に対し、前記の送付方法のうち、自国がそれらの国の司法共助の嘱託書のために承認する一又は二以上の方法を通知するものとする。締約国が前記の通知を行うまでの間、司法共助の嘱託書に関してはその国の現行の手続によるものとする。司法共助の嘱託書の実施により、鑑定人の費用以外のいかなる性質の料金又は費用の支払請求権も生ずることはないものとする。この条約のいかなる規定も、この条約の締約国が刑事事件について、その国内法に反する立証形式又は立証方法を採用することを約束するものと解してはならない。

(調査機関)
第14条 この条約の各締約国は、この条約に掲げる違反行為を調査した結果を整理しかつまとめることを任務とする機関を設置し、又は維持するものとする。前記の機関は、この条約に掲げる違反行為の防止及び処罰に役だつと考えられるすべての情報を収集し、かつ、他の国の対応する機関と密接な連絡を保つものとする。

(情報の提供)
第15条 前条の機関について責任を負う当局は、国内法が認める範囲内で、かつ、その当局が望ましいと認める程度において、他の国の対応する機関について責任を負う当局に次の情報を提供するものとする。
 1 この条約に掲げる違反行為又はその未遂に関する詳細
 2 この条約に掲げる違反行為のいずれかを犯した者の捜査、訴追、逮捕、有罪判決、自認の拒否及び送還に関する詳細、その者の動静並びにその者についての他の有益な情報
 前記の情報は、犯罪者の人相書、指紋、写真、手口、警察の記録及び有罪判決の記録を含むものとする。

(売春等の防止、更生及び社会的補導)
第16条 この条約の締約国は、その公私の教育、保健、社会、経済その他の関係機関を通じて、売春の防止並びに売春及びこの条約に掲げる違反行為の被害者の更生及び社会的補導のための措置を執り、又はこれを奨励することに同意する。

(出入国管理)
第17条 この条約の締約国は、売春を目的とする男女の人身売買を防止するため、出入国に関連して、この条約に基きその義務として要求されている措置を執り、又は維持することを約束する。締約国は、特に、次のことを約束する。
 1 出入国者、特に婦人及び児童を到着地及び出発地において並びにその旅行中において保護するため必要な規則を設けること。
 2 前記の人身売買の危険を公衆に警告する適当な周知方法を講ずること。
 3 売春を目的とする国際的人身売買を防止するため、鉄道停車場、空港、海港、旅行中及び他の公開の場所の取締を確保するための適当な措置を執ること。
 4 前記の人身売買の主犯及び共犯又はその被害者であると疑うに足りる者の到着を当局が知ることができるように適当な措置を執ること。

(外国人からの情報取得と通知)
第18条 この条約の締約国は、国内法が定める条件に従い、売春者である外国人から、その身元及び身分関係を確かめるため、並びにだれが本国を去らせるに至ったかを知るために供述を取ることを約束する。入手した情報は、それらの者が将来本国に帰国すべきことを考慮し、その本国の当局に通知するものとする。

(被害者の送還及び保護)
第19条 この条約の締約国は、国内法が定める条件に従い、できる限り次のことを行うことを約束する。ただし、国内法に対する違反を訴追し又はこれに対しその他の措置を執ることを妨げない。
 1 売春を目的とする国際的人身売買の被害者が、その本国への送還に関する措置を完了するまでの間、生活に困窮するときは、それらの者の一時的保護及び扶養のための適当な措置を講ずること。
 2 第18条に掲げる者であって、本国への帰国を希望するもの、その者に対して権限を行便する者から送還を要求されているもの又律法令に従って強制退去を命ぜられたものを本国に送還すること。本国への送還は、身元及び国籍について、並びに国境における到着の場所及び日時について送還先国と合意が成立した後にのみ実施されるものとする。この条約の各締約国は、その領域のこれらの者による通過を容易にするものとする。
 前項に掲げる者が、本国への送還の費用を返済することができず、かつ、本人に代ってその費用の支払を行う配偶者、親族又は保護者を有しないときは、その本国に向って最も近い国境、乗船港又は空港までの送還費用は、その者が居住している国の負担とし、残余の旅行の費用は、その本国の負担とする。

(職業紹介事業の監督)
第20条 この条約の締約国は、当該措置をまだ執っていないときは、求職者、特に婦人及び児童を売春の危険にさらさないため、職業紹介事業の監督について必要な措置を執るものとする。

(国際連合事務総長への通知事項)
第21条 この条約の締約国は、この条約の事項に関してすでにその国で公布されている法令並びに今後、毎年、この条約の事項に関して公布される法令及びこの条約の適用に関して締約国が執るすべての措置を国際連合事務総長に通知するものとする。事務総長は、受領した情報を定期的に刊行し、かつ、すべての国際連合加盟国及び第23条の規定に従いこの条約を正式に通報してある非加盟国に送付するものとする。

第22条〜第28条 〔略〕