トップへ戻る


同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的なあり方について


1996年(平成8)5月17日
    内閣総理大臣殿
    関係各大臣殿

         地域改善対策協議会

 本協議会は、平成3年12月11日の本協議会意見具申が指摘した地域改善対策の今後の基本的な課題について審議するため、平成5年7月28日、本協議会の中に総括部会を設置した。総括部会は、平成5年10月以来、29回にわたって審議を行い、本年3月28日に意見をとりまとめ、本協議会に対し別添のとおり報告がなされた。

 本協議会は上記報告を踏まえて審議を行った結果、本日、同和問題の早期解決に向けた方策の基本的な在り方について、同報告の内容をもって本協議会の意見とし、これを具申することとした。政府におかれては、本協議会の意見を尊重し、同和問題の早期解決に向けた施策の推進に当たられるよう要望するものである。

1.同和問題に関する基本認識

 今世紀、人類は二度にわたる世界大戦の惨禍を経験し、平和が如何にかけがえのないものであるかを学んだ。しかし、世界の人々の平和への願いにもかかわらず、冷戦構造の崩壊後も、依然として各地で地域紛争が多発し、多くの犠牲者を出している。

 紛争の背景は一概には言えないが、人種や民族問の対立や偏見、そして差別の存在が大きな原因の一つであると思われる。こうした中で、人類は、「平和のないところに人権は存在し得ない」、「人権のないところに平和は存在し得ない」という大きな教訓を得た。

 今や、人権の尊重が平和の基礎であるということが世界の共通認識になりつつある。このような意味において、21世紀は「人権の世紀」と呼ぶことができよう。

 我が国は、国際杜会の一員として、国際人権規約をはじめとする人権に関する多くの条約に加入している。

 懸案となっていた「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」(人種差別撤廃条約)にも加入し、「人権教育のための国連10年」への本格的な取組みも開始された。世界の平和を願う我が国が、世界各国との連携・協力の下に、あらゆる差別の解消を目指す国際社会の重要な一員として、その役割を積極的に果たしていくことは、「人権の世紀」である21世紀に向けた我が国の枢要な責務というべきである。

 ひるがえって、我が国固有の人権問題である同和問題は、憲法が保障する基本的人権の侵害に係る深刻かつ重大な問題である。

 戦後50年、本格的な対策が始まってからも四半世紀余、同和問題は多くの人々の努力によって、解決へ向けて進んでいるものの、残念ながら依然として我が国における重要な課題と言わざるを得ない。

 その意味で、戦後民主主義の真価が問われていると言えよう。また、国際社会における我が国の果たすべき役割からすれば、まずは足元とも言うべき国内において、同和問題など様々な人権問題を一日も早く解決するよう努力することは、国際的な責務である。

 昭和40年の同和対策審議会答申(同対審答申)は、同和問題の解決は国の責務であると同時に国民的課題であると指摘している。その精神を踏まえて、今後とも、国や地方公共団体はもとより、国民の一人一人が同和問題の解決に向けて主体的に努力していかなければならない。そのためには、基本的人権を保障された国民一人一人が、自分自身の課題として、同和問題を人権問題という本質から捉え、解決に向けて努力する必要がある。

 同和問題は過去の課題ではない。この問題の解決に向けた今後の取組みを人権にかかわるあらゆる問題の解決につなげていくという、広がりをもった現実の課題である。そのような観点から、これまでの成果を土台とし、従来の取組みの反省を踏まえ、未来に向けた新たな方向性を見極めるべき時に差しかかっていると言えよう。

2. 同和問題解決への取組みの経緯と現状
(1)これまでの経緯
 明治4年の太政官布告は、同和問題の解決に向けた出発点になったが、十分な対策はとられず、強固な差別意識が残された。戦後、昭和28年度に隣保館設置の補助事業が始まり、昭和35年度からはモデル地区において総合事業が開始された。これらは新憲法の下での新しい一歩ではあったが、同和地区の生活実態はなお劣悪であり、全国的にみて対策の不均衡もみられた。

 昭和40年の同対審答申は、あらゆる意味で今日までの対策の基礎になってきた。同和問題の解決は国の責務であると同時に国民的課題であるとの基本認識を明確にし、国や地方公共団体の積極的な対応を促したことなど、同和問題の解決を図る上でこの答申が果たした歴史的意義は極めて大きい。答申がなされてから既に30年余り経過しているが、同和問題の早期解決に向けて、この答申の趣旨を今後とも受け継いでいかなければならない。

 同対審答申を踏まえ、昭和44年に10年問の限時法として同和対策事業特別措置法(同対法)が制定され、その後の3年間の延長も含め、特別対策が総合的に推進された。この間の対策により、物的な基盤整備が急速に進展するなど大きな成果をあげたが、心理的差別の解消の面では大きな課題が残った。

 また、事業の進展に伴い、一部に周辺地域との均衡や一体性を欠いた事業の実施がみられたり、えせ同和行為などの新たな問題も発生してきた。このため、同対法に基づく事業の中で必要なものを継承しつつ、それまでの施策の反省を踏まえた地域改善対策特別措置法(地対法)が昭和57年に5年間の限時法として制定された。

 その後、昭和62年、地域改善対策の一般対策への円滑な移行のための最終法として提案された現行の地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(地対財特法)が5年間の限時法として制定され、平成4年に5年間延長された。地対法、地対財特法を通じ、特別対策を必要に応じて見直しながら引き続き実施する一方、心理的差別の解消を目指した啓発事業の積極的な展開を図るとともに、行政の主体性の確立、えせ同和行為の排除などの適正化対策が推進され、現在、地対財特法の期限まで、残り約1年という段階に差しかかっている。

(2)現状と課題
 これまでの対策の効果を測定し、同和地区の実態や国民の意識等について把握するため、平成5年度に同和地区実態把握等調査(実態調査)が実施された。当部会では「同和地区実態把握等調査に関する小委員会」を設置し、この調査結果に基づいて、同和問題の解決に向けた課題を整理した。
 以下は、その要点である。
@現状
 同和地区においては、若い世代が就職や結婚のために同和地区外へ転出する傾向がみられ、全国平均に対して高齢化の比率が若干高くなっている。同和関係者が同和関係者以外の者と結婚するケースは増加の傾向を示している。また、住宅、道路等の物的な生活環境については改善が進み、全体的には、同和地区と周辺地域との較差はみられない。下水道普及率は、全国平均に比べて大幅に低くなっているが、都市規模別にみると、大きな差はみられない。

 高等学校等進学率は向上してきており、ここ数年9割を超えているが、全国平均と比べるとなお数ポイントの差がみられる。最終学歴については、高等教育修了者(短大・大学等)の比率が
20歳代、30歳代では40歳以上に比べてかなり高くなっているが全国平均との差はなお大きい。

 就労状況は、若年齢層を中心に、安定化する傾向にあるが、全国平均と比較すると不安定な就労形態の比率が高くなっている。就労先は全体的に小規模な企業の比率が高くなっている。また、年収の面では、全国平均に比べて全体的に低位に分布しており、世帯の家計の状況も、全般的にみると依然として全国平均よりも低位な状況にある。農業経営世帯は、小規模農家が多く、農業従事者が高齢化してきている。事業経営世帯では、小規模な個人経営が多い。

 同和地区の人であるということで約3割の同和関係者が人権を侵害されたとしているが、公的機関に相談した者は少数にとどまっている。同和問題に関する国民の差別意識は、着実に解消へ向けて進んでいるものの、同和関係者との結婚問題を中心に依然として残っている。

 隣保館の利用比率は高く、同和地区外住民も多数利用している。

 地域改善対策の適正化については、改善された点もみられるものの、個人給付的事業の資格審査の実施、公営住宅等の家賃の見直し、地方公共団体単独事業の見直し、団体補助金の交付に際しての審査、公的施設の管理規程の整備などの点で、不十分な状況がみられる。

A これまでの成果と今後の主な課題実態調査の結果からみて、これまでの対策は生活環境の改善をはじめとする物的な基盤整備がおおむね完了するなど着実に成果をあげ、様々な面で存在していた較差は大きく改善された。

 しかし、高等学校や大学への進学率にみられるような教育の問題、これと密接に関連する不安定就労の問題、産業面の問題など、較差がなお存在している分野がみられる。差別意識は着実に解消へ向けて進んでいるものの結婚問題を中心に依然として根深く存在している。また、人権侵害が生じている状況もみられ、その際の人権擁護機関の対応はなお十分なものとは言えない。さらに、適正化対策もなお不十分な状況である。

 同和問題の解決に向けた今後の主要な課題は、依然として存在している差別意識の解消、人権侵害による被害の救済等の対応、教育、就労、産業等の面でなお存在している較差の是正、差別意識を生む新たな要因を克服するための施策の適正化であると考えられる。これらの課題については、その背景に関して十分な分析を行い、適切な施策が講じられる必要がある。

3.同和問題解決への展望
(1)これまでの対策の意義と評価

 同対法以来これまで三度にわたる特別法が制定され、四半世紀余にわたって同和地区、同和関係者に対象を限定した特別対策が実施されてきた。同対審答申の当時は、同和地区や同和関係者が事実上一般対策の枠外に置かれていたという状況や、心理的差別と実態的差別の相互作用が差別を再生産しているという悪循環がみられた。この悪循環を断ち切り、生活実態の早急な改善を図るには、迅速な事業の実施と全国的な水準の引上げを図ること等が必要とされ、これらの法律により期間を限って、国が財政上の特別措置を講じることにより、所要の施策の推進に努めてきた。

 このような考え方の下に推進されてきた特別対策は、極めて大きな意義をもつものであった。すなわち、物的な生活環境をはじめ様々な面で存在していた較差が大きく改善された。また、これによって物的な生活環境の劣悪さが差別を再生産するというような状況も改善の方向に進み、差別意識の解消に向けた教育及び啓発も様々な創意工夫の下に推進されてきた。さらに、対策の実施は全国的に進展し、地方公共団体にとって財政的負担が特に大きい物的な基盤整備はおおかた完了したとみられる。これらを総合的に勘案した飴、全般的にみれぱ、これまでの特別対策は現行法期限内におおむねその目的を達成できるものと考えられる。

 これまでの対策は上述のように大きな意義があったが、2(2)に述ぺたように深刻な課題が残されているとともに、現時点でみれば反省すべき点も少なくない。事業の実施に当たって周辺地域との一体性を欠いたり、啓発などのソフト面の取組みが不十分であったことにより、いわゆる「ねたみ意識」が表面化するなど差別意識の解消に逆行するひずみが指摘されてきた。また、これらの特別対策は、施策の適用上、地区や住民を行政が公的に区別して実施されてきたものであり、それが住民の意識に与える影響等、この手法に内在する問題点も指摘されている。

(2)今後の施策の基本的な方向
 特別対策は、事業の実施の緊要性等に応じて講じられるものであり、状況が整えばできる限り早期に一般対策へ移行することになる。一方、教育、就労、産業等の面でなお存在している較差の背景には様々な要因があり、短期問で集中的に較差を解消することは困難とみられ、ある程度の時間をかけて粘り強く較差解消に努めるべきである。

 このようなことから、従来の対策を漫然と継続していたのでは同和問題の早期解決に至ることは困難であり、これまでの特別対策については、おおむねその目的を達成できる状況になったことから、現行法の期限である平成9年3月末をもって終了することとし、教育、就労、産業等のなお残された課題については、その解決のため、4で述べるような工夫を一般対策に加えつつ対応するという基本姿勢に立つべきである。

 本報告に盛り込まれた施策を実現していくため、法的措置の必要性を含め各般の措置について具体的に検討し、これに基づいて、国及び地方公共団体は、基本的人権の尊重と同和問題の一日も早い解決をうたった同対審答申の精神とこれまでの成果を踏まえつつ、それぞれがその責務を自覚し、今後とも一致協力して、これらの課題の解決に向けて積極的に取り組んでいく必要がある。

 同対審答申は、「部落差別が現存するかぎりこの行政は積極的に推進されなければならない」と指摘しており、特別対策の終了、すなわち一般対策への移行が、同和問題の早期解決を目指す取組みの放棄を意味するものでないことは言うまでもない。一般対策移行後は、従来にも増して、行政が基本的人権の尊重という目標をしっかりと見据え、一部に立ち遅れのあることも視野に入れながら、地域の状況や事業の必要性の的確な把握に努め、真撃に施策を実施していく主体的な姿勢が求められる。

4.今後の重点施策の方向
(1)差別意識の解消に向けた教育及ぴ啓発の推進

@基本的な考え方
 差別意識の鰯肖のために教育及び啓発の果たすべき役割は極めて大きく、これまで様々な手法で施策が推進されてきた。しかしながら、同和問題に関する国民の潮u意識は解消へ向けて進んでいるものの依然として根深く存在しており、その解消に向けた教育及び啓発は引き続き積極的に推進していかなけれぱならない。

 教育及び啓発の手法には、法の下の平等、個人の尊重とりった普遍的な視点からアプローチしてそれぞれの差別問題の解決につなげていく手法と、それぞれの差別問題の解決という個別的な視点からアプローチしてあらゆる差別の解削こつなげていく手法があるが、この両者は対立するものではなく、その両者があいまって人権意識の高揚が図られ、様々な差別問題も解消されていくものと考えられる。

 今後、差別意識の解消を図るに当たっては、これまでの同和教育や啓発活動の中で積み上げられてきた成果とこれまでの手法への評価を踏まえ、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育、人権啓発として発展的に再構築すべきと考えられる。その中で、同和問題を人権問題の重要な柱として捉え、この問題に固有の経緯等を十分に認識しつつ、国際的な潮流とその取組みを踏まえて積極的に推進すべきである。

 同様な観点から、「人権教育のための国連10年」に係る施策の中でも、同和間題を我が国の人権問題における重要な柱として捉え、今後策定される国内行動計画に基づいて教育及び啓発を積極的に推進し、同和問題に関する差別意識の解消に努めるべきである。

A実施体制の整備と内容の創意工夫
 国や地方公共団体においては、これまでの積み上げられてきた成果や手法への評価を踏まえて、実施体制の整備や必要な施策について検討すべきである。その際、「人権教育のための国連10年」に係る施策の積極的な推進等による差別意識の解消に向けた教育及び啓発の総合的かつ効果的な推進という観点を踏まえる必要がある。また、従来特別対策として行ってきた学校教育や杜会教育の関係事業、及び就労対策、農林漁業対策、中小企業対策の中で行ってきたものを含む各種の啓発事業については、人権教育、人権啓発の推進という観点から再構成すべきである。

 公益法人等の公的な性格を有する民間団体、社会教育関係団体や民間企業も、今後の教育及ぴ啓発において重要な役割を担うことが期待される。特に、財団法人地域改善啓発センターは、啓発活動の実践、多様な主体が実施する教育・啓発活動に対する情報提供など種々の支援等の面で引き続き重要な役割を果たしていくことが期待され、今後の教育及び啓発との関連において、その在り方を必要に応じ見直していくことが望まれる。

 今後の教育及び啓発を更に効果的なものとしていくためには、それぞれの主体における実施体制の整備とあわせ、多様な主体が連携協力するための横断的なネットワークの形成、その中核的な媒体となる情報データベースの整備、公務員研修等を通じた指導者の養成、優れた教材や手法を開発するための調査研究など、教育や啓発の共通基盤となる要素が整備される必要がある。また、人材養成等の観点から、大学教育においても人権問題に対する一層の対応が強く望まれる。

 教育及び啓発の内容の面でも、様々な課題に対する国際的な人権教育・啓発の成果、経験等も踏まえ、公正で広く国民の共感を得られるような更なる創意工夫を凝らし、家庭、地域杜会、学校などの日常生活の中で実践的に人権意識を培っていくことが必要である。このため、例えぱ、多様な興味関心への対応、知識の伝達にとどまらない日常生活や地域の実態に即した実践性、感性への訴えかけ、誰もが参加しやすい明るく楽しい雰囲気づくりと意見や感想の自由な交換の重視、マスメディアの活用といった観点から、その内容・手法については一層の創意工夫を凝らしていくことが望まれる。

 また、いたずらに「禁句」にとらわれることにより、意識の中に建前と本音の乖離が生じ、問題の本質の正しい理解が妨げられることのないよう、特に留意すべきである。その意味でもメディアの役割は重要である。

(2)人権侵害による被害の救済等の対応の充実強化
@基本的な考え方
 同和問題の本質的な課題は、同和関係者に対する人権侵害の解消を図るとともに人権侵害が発生しないような社会的意識を確立することであるが、残念ながら今なお同和関係者に対する人権侵害が生じている。不幸にして人権侵害が発生した場合には、司法機関による解決のほか、人権擁護機関が中立公正な立場から相談、勧告等の対応をしてきたところであるが、現行の体制では被害の簡易迅速な救済という観点からはなお十分なものとは言えない。

 人権擁護制度の在り方は、その国の人権に対する姿勢を示していると言っても過言ではない。同和関係者に対する人権侵害などあらゆる人権侵害に対して、被害の救済を含めてより有効な対応が図られるよう、人権擁護制度の充実強化に取り組むべきである。教育及び啓発という観点からも、人権侵害が発生した際に、関係者に対し適切な人権擁護措置を講ずることは極めて大きな意味をもつものと考えられる。

A人権侵害救済制度の確立
 あらゆる人権侵害に対して、事実関係の調査や被害の救済等を含め簡易迅速かつ有効適切な対応が図られるよう、各国の取組み等国際的な潮流も視野に入れ、現行の人権擁護制度を抜本的に見直し、21世紀にふさわしい人権侵害救済制度の確立を目指して鋭意検討を進めるべきである。

B人権擁護委員制度の充実と人権相談業務の推進
 上述のように人権擁護制度全般にわたって突っ込んだ検討が必要であるが、人権擁護委員制度の在り方についても、既に種々の間題点が指摘されているところであり、より積極的な活動が期待できる適任者を確保するための方策、人権擁護委員の活動をより活性化するための方策、さらには、その活動を実効あるものにするための方策等について、総合的に検討する必要があるものと考えられる。

 人権相談業務は、人権侵害による被害の救済等の対応の端緒として重要な意味を持っている。法務局等の人権擁護機関と地方公共団体は相互に緊密な運携の下に、公共施設などの国民の利用しやすい場所において市民がいつでも気軽に相談できるような窓口の整傭を積極的に進めるべきである。また、相談に応じる職員や人権擁護委員の対応能力の向上を図ることが不可欠である。さらに、人権擁護制度について国民に知ってもらうための努力も重要であり、教育・啓発活動と連携を図りつつ、人権相談業務の内容、相談体制について積極的に周知を図るべきである。

(3)地域改善対策特定事業の一般対策への円滑な移行
@基本的な考え方
 既に述べたように、現行の特別対策の期限をもって一般対策へ移行するという基本姿勢に立つことは、同和問題の早期解決を目指す取組みの放棄を意味するものではない。今後の施策二一ズには必要な各般の一般対策によって的確に対応していくということであり、国及び地方公共団体は一致協力して、残された課題の解決に向けて積極的に取り組んでいく必要がある。

 この一般対策への移行を円滑に行うためには、下記に述べるような一部の事業等については一定の工夫が必要と考えられる。その具体化に当たっては、一般対策への移行の趣旨に照らせば限定的でなければならないが、既存の一般対策の状況、なお残されている課題の状況、地方公共団体の財政状況を踏まえた上で、これまでの施策の成果が損なわれるなどの支障が生ずることのないよう配慮すべきである。

A工夫の方向
 環境改善の分野のうち、小集落地区等改良事業の場合は、既に着工済みであるが地対財特法期限までの事業完了が困難と見込まれるものがみられ、かつ、この事業を実施している地方公共団体の中には財政力の弱いものがみられることから、当該事業の完了に支障が生じることのないよう、国として適切に対応すべきである。また、小規模な集落における環境改善のニーズに全体として的確に応えられるよう、受皿としての面的整備事業の手法を検討すべきである。なお、公共下水道については、中規模都市や町村において全国的に普及が遅れており、整備の促進が図られるべきである。
 社会福祉の分野においては、隣保館について、周辺地域を含めた地域社会全体の中で、福祉の向上や人権啓発の住民交流の拠点となる開かれたコミュニティーセンターとして、今後一層発展していくことが望まれる。地域の実態把握や住民相談といった基本的な機能に加え、教養文化活動の充実や地域のポランティアグループとの連携など地域社会に密着した総合的な活動を展開し、さらにこれらの活動を通じて日常生活に根ざした啓発活動を行うことが期待される。このため、隣保館等の地域施設において各種の事業を総合的にかつ活発に展開することができるよう、国として適切に対応すべきである。

 また、保育についても、家庭環境に対する配慮、や地域との連携など、きめ細かな保育を行っていけるよう、国として適切に対応すべきである。

 教育の分野においては、高等学校の進学率や中退率、また大学への進学率をみても全国平均と比べてなお較差がみられる状況であり、その背景にある様々な要因も考慮した場合、教育を巡る課題は今なお多く、較差の解消にはある程度の時間を要するものと考えられる。高等学校等進学奨励費補助事業については、教育が就労の安定、生活水準の向上等社会生活の多くの分野の改善を図る上での基礎的条件をなすものであることにかんがみ、他の奨学資金制度との整合性、運用の適正化等、様々な論議に留意しながら、当面、所要の施策を講ずることが望ましいと考えられる。その際、これまでの成果が損なわれることのないよう十分配慮し、自立促進の観点に立ち、今後一層の進学意欲と学力の向上を目指して、学校、家庭、地域杜会が一体となった総合的な取組みが必要である。

 就労の分野においては、中高年齢層を中心に不安定就労者の比率が全国平均と比べて高い状況であり、就労を巡る課題は今なお多く、較差の解削こはある程度の時間を要するものと考えられる。職業の安定は、直接生活水準の向上に寄与し、社会生活の改善を図る上で基本となるものである。このため、若年齢層を含めた一層の就労の安定を目指し、施策の二ーズを踏まえ、全体の体系の中で受皿としての事業の検討を含め国として適切に対応すべきである。

 農林漁業対策の分野においては、経営基盤の小規模零細性、高齢化、担い手の減少などの問題を抱えており、小規模零細な農林漁業者における生産基盤や共同利用施設の整備について、全体の体系の中で受皿としての事業の検討を含め国として適切に対応し、農林漁業の振興に努めるべきである。

 中小企業対策の分野においては、生活水準の較差等につながる経営面での較差を是正するため、中小企業の共同化の促進、巡回相談等について全体の体系の中で受皿としての事業の検討を含め国として適切に対応し、中小企業の振興に努めるべきである。

 相談員、指導員等については、受皿の検討を含め円滑な移行に努めるべきである。

(4)今後の施策の適正な推進
@基本的な考え方
 これまでの当協議会意見具申等の中で、行政の主体性の確立、同和関係者の自立向上、えせ同和行為の排除、同和問題についての自由な意見交換のできる環境づくりの必要性が指摘されているが、今日においてもなお十分な状況とは言えない。それだけ、この問題の難しさがあるものと考えられるが、引き続き、これらを達成するための息の長い取組みが必要である。

A行政の主体性の確立
 これまでの指摘を踏まえた国や地方公共団体の努力により、改善された点もみられるものの、残念ながら、実態調査の結果からみてなお課題が残されている状況であり、具体的な問題点について引き続き厳しく是正すべきである。

 このため、行政職員の研彦の体系的な実施に努めるとともに、個人給付的事業における返還金の償還率の向上等の適正化、著しく均衡を失した低家賃の是正、民問運動団体に対する地方公共団体の補助金等の支出の一層の適正化、公的施設の管理運営の適正化、教育の中立性の確保について、引き続き関係機関を指導すべきである。また、国税の課税については、国家行政の根幹にかかわる問題であり、その公正を疑われることのないよう、より一層の主体性をもって引き続き適正・公平な課税の確保に努力すべきである。地方税の減免措置についてもその一層の適正化に今後とも取り組むべきである。

 さらに、行政の監察・監査・会計検査等については、必要に応じてこれらの機能の一層の活用が図られるべきである。

 また、今後、行政には、3でも述べたように、基本的人権の尊重という目標をしっかりと見据え、真撃に、かつ的確に、地域の状況や事業の必要性に応じ、施策を実施していく主体的な姿勢が求められる。

B同和関係者の自立向上
 現在の同和地区が真に住みよい地域社全としてさらに発展していくためには、ソフト面での自主的な住民活動が重要であリ、これを促進するためには、同和関係者の意識の醸成や指導者となる人材の養成が必要である。また、同和問題の解決を図る上で同和関係者の自立への意欲は重要な要素である。このため、教育や啓発の中で同和関係者の自立向上という目標を重視し、それらを支援するための方策も検討すべきである。

Cえせ同和行為の排除
 えせ同和行為は、その行為自体が問題とされ排除されるべきものであるだけでなく、差別意識の解消に向けた教育や啓発の効果を覆し、同和間題の解決に真剣に取り組んでいる者や同和関係者に対する国民のイメージを著しく損ねるものである。そして、国民に対して、この問題に対する誤った意識を植え付け、同和問題解決の大きな阻害要因となっている。法務省が平成7年1月に実施したえせ同和行為実態把握のためのアンケート調査によれぱ、1事業所当たりの要求件数の減少、要求に対する拒否率の上昇など改善された点もみられるものの、全体的には被害が依然として深刻な状況である。これまで、昭和62年に国がえせ同和行為対策中央連絡協議会を設置してえせ同和対策大綱を策定し、これに基づき情報交換、手引書の作成、啓発などに取り組んでいるが、被害が依然として深刻であることにかんがみ、えせ同和行為の排除の一層の強化を図るべきである。

 えせ同和行為に対処するには、同和間題を正しく理解することが何よりも重要である。また、刑事事件に該当するものについては引き続き厳格に対処すべきであリ、不当要求には毅然とした態度をとること、組織全体で対応すること、法務局、警察の暴力団取締担当部署、弁護士会の民事介入暴力被害者救済センターなどに早期に相談すること等を行政機関、企業等に更に徹底すべきである。なお、同調査結果では、えせ同和行為に対して行政機関が無責任な対応をし、企業が不信感を持っていることをうかがわせる事例もみられることから、行政機関が率先して毅然とした態度をとるよう特に徹底すべきである。

D同和問題についての自由な意見交換のできる環境づくリ
 「同和間題はこわい間題であり避けたほうがよい」という風潮は、依然としてえせ同和行為が横行する背景となり、行政の主体性の欠如を生み、この間題に対する自由な意見交換を阻害してきた。教育や啓発を真に実効あるものとし、人権が尊重される社会を築きあげていくには、その基盤として同和問題に対する正しい認識を深めるための自由な意見交換のできる環境づくりが不可欠である。同時に教育や啓発に当たって、意見や感想を表明しやすい方法を工夫することも重要と考えられる。

(5)その他
 国においては、「人権教育のための国連10年」に係る施策の積極的な推進等を通じ、同和問題をはじめとする差別意識の解消こ向けた教育及び啓発を総合的かつ効果的に推進できるよう、その体制の在り方について検討する必要があると考えられる。その際、既に述べた「人権の世紀」とも言うべき21世紀に向けた今後の政府全体としての取組みにおける運絡調整体制についてもその在り方を併せて検討すべきである。

 地方公共団体においても、本報告を受けた国の施策の今後の方向及びその趣旨を踏まえ、地方単独事業について更に見直しを行うことが強く望まれるほか、同和問題の解決と人権の尊重に向けた行政の取組みについて改めて検討すべき時期にきているものと考えられる。その際、国と同様、「人権教育のための国連10年」に係る施策の推進体制の在り方や「人権の世紀」とも言うべき21世紀に向けた今後の取組みにおける連絡調整体制の在り方についても検討すべきである。